どうも、Mr. しめじ と申します。
いきなり自分語りで恐縮なのですが、私は10年ほど前にうつ病を発症して、会社を休職したことがあります。20代の後半のころです。
そのとき、産業医の心療内科の先生は「とにかく毎日10,000歩以上ウォーキングしてくださいね」と指導してくれました。
いや、うつ病で休んでるのに歩くの?
普通に考えて無理でしょ・・・。
と、心の中でツッコミを入れたのを今でも覚えています。
とはいえ私は会社にチクられるのが怖かったので真面目な性格なので、大人しく先生の言うことを聞き、歩数計を買って毎日10,000歩以上歩いてました。
……というのが理想でしたが、実際には2,3日に1回くらい10,000歩を超えるのが精一杯。
調子が悪いときなどは、ほぼ歩けないという週もあったと思います。
しかし毎週の診察の際に
どうでしたか?歩けましたか?(ニッコリ)
と先生が優しく聞いてきて、そのときに歩数計の記録を見せないといけないのです。
サボったのがバレるのが怖かったので、歩数計を手に持ってフリフリしたりもしました。けっこう不真面目な患者だったと思います。
そんなこんなで、中途半端に休んだり頑張って歩いたりしながら過ごしていたのですが、最初の休職期間中にはうつ病はあまり良くならず。
結局、会社に復帰しても再発して退職(→転職)することになりました。
うつ病はその後の3年~5年で段々とよくなり、仕事も別の職種で独立したりして、自分ではうつ病は今では完治したと思っています。
いや、「完治した」というよりも、うつ状態をコントロールするコツが分かってきたという方が正確かもしれません。
具体的には、運動(ジョギングや筋トレ)と食事・睡眠に気をつけることです。
振り返って考えると、発症直後の数ヶ月~1年の間にウォーキングをもっと真面目に取り組んでいれば、もっとスムーズにうつ病も良くなっていただろうな…と感じます。
そう思えるのは、運動がメンタルに与える好影響を今さらながら実感しているから。
もう1つの理由は、ウォーキングなどの有酸素運動が脳内セロトニンを増やす仕組みを最近知ったからです。
そこでこのページでは、ウォーキングがうつ病(や統合失調症)に与える好影響と、その仕組みについてまとめて見たいと思います。
私は医者でも医療従事者でもないため、あくまでもリサーチ結果のまとめです(参考文献などは明示します)。
うつ病で苦しんでいる方や、患者さんを見守っているご家族の助けに少しでもなれば嬉しいです。
ウォーキングがうつ病改善につながる理由:その要点
このページは少し長くなりそうなので、最初に要点のポイントを箇条書きでまとめておきます。
- 脳内セロトニンの減少が、うつ病や統合失調症の原因である。
(直接的・間接的) - セロトニンの材料(前駆物質)は、必須アミノ酸の一つであるトリプトファン。
- ウォーキングをするとトリプトファンの脳内への取り込みが促進される。
- 脳内で材料のトリプトファンが増える結果、脳内セロトニンが増える。
- 結果として、うつ病や統合失調症の症状改善につながる。
脳内セロトニンの働きとうつ病・統合失調症との関係
セロトニンは神経伝達物質の一つ。
うつ病や統合失調症の人の脳には、セロトニンが少ないことが知られています。本などでは「セロトニンが枯渇している」「セロトニン欠乏」と表現されることも多いです。
脳内セロトニンは数多くの面で精神・身体に関わっていますが、メンタル面に関していえば
- 自律神経の調整
(交感神経↔副交感神経の調整) - ドーパミンとノルアドレナリンのバランス調整
- ストレスへの対応
- 睡眠覚醒の調整
などが挙げられます。
継続的かつ過度なストレスにさらされるとセロトニン神経系が弱り、脳内セロトニンが減ってしまいます。
うつ病治療で使われる服用薬「SSRI」は、セロトニンの再取り込みを阻害して脳内セロトニンの濃度を高める効果があります。
SSRIを飲むと多くの場合うつ状態は改善されるので、セロトニンの減少はうつ病の原因の1つと考えられているのです。
また、統合失調症の原因はハッキリと解明されていませんが、ドーパミンの分泌量異常に起因しているというのが有力な説です。
ドーパミンが過剰になると幻覚や幻聴などの陽性症状が現れ、ドーパミンが欠乏すると思考力低下や物事への関心の低下などの陰性症状が現れます。
セロトニンの機能の1つに「ドーパミンとノルアドレナリンのバランス制御」というものがあります。
セロトニンの分泌量が少なくなってしまうと、ドーパミンが過剰になったり欠乏したりします。
つまり、セロトニンも統合失調症に間接的に関わっているわけです。
セロトニンが作られる場所
実はセロトニンは脳内だけではなく、腸内や血液中にも存在しています。
というか、セロトニン全体のうち脳内に存在するのはたった2%。
残りの98%は小腸で作られ、腸の蠕動活動(排便を促す動き)を促す役割を持っています。98%のうち8%は血液中に移行し、血管収縮などに関与します。
脳と血液のあいだには血液脳関門という「関所」があるため、小腸で作られた98%のセロトニンは脳内に入ることができません。
つまり、脳内セロトニンとそれ以外のセロトニンは別物と考えた方が良いということですね。
なので「うつ改善のためにセロトニンを増やそう!」というときのセロトニンとは、脳内セロトニンのことを言っています。
腸内のセロトニンは蠕動活動に関与しますが、蠕動活動は自律神経(交感神経・副交感神経)と強く関係しています。
そのため、腸内のセロトニンも間接的に精神(メンタル)に関係しているといえます。
脳内セロトニンを増やすことの効果
うつ病の薬の第一選択は、SSRIと呼ばれる種類の薬です。
SSRIは”Selective Serotonin Reuptake Inhibitor”の略で、日本語に訳すと「選択式セロトニン再取り込み阻害薬」となります。
SSRIは神経間のセロトニンの再取り込みを阻害するため、結果的に脳内のセロトニン濃度が高まります。
その結果としてうつ状態の改善が期待されるわけです。
また、統合失調症の治療薬でもセロトニンに作用するものが多いです。
過剰になったドーパミンをブロックしつつセロトニンの働きを増強する効果を持つ薬です(SDAM)。
つまり、うつ病の場合も統合失調症の場合も、自分で脳内セロトニンを増やすことができるとしたら、症状改善につながる可能性が高いということです。
脳内セロトニンが脳神経の新生を促す?
これまでの研究で、うつ病・統合失調症患者の脳では大脳新皮質で神経細胞や神経伝達物質が減少していることが判明しています(A)。
また、「うつ病・統合失調症患者の脳内の扁桃体には共通の損傷が見られる」と主張する医師もいます(B)。
つまり、うつ病や統合失調症とは、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の単なる分泌異常ではなく、ましてや決して「本人の気分」の問題などではなく、脳の損傷を伴う病気だということです。
このことは、うつ病・統合失調症を治すためにはダメージを受けた脳を修復する必要があるということを意味します。
以前は「成人の脳は修復不可能」というのが通説でしたし、いま現在でも私たち一般人の間ではこの認識を持っている人が多いのではないかと思います。
しかし、ここ10~20年の研究の結果、成人の脳でも神経細胞の新生(あらたに神経細胞が生まれること)が起きていることが明らかになっているのです。
神経細胞の「もと」となる未分化の細胞は神経幹細胞と呼ばれますが、この神経幹細胞が脳のダメージ修復のカギとなります。
そして神経幹細胞は慢性的ストレスによって減少し、うつ病治療薬のSSRIによって増加することが分かっているのです。
私たちは、成体脳の神経幹細胞の動態と動物の気分や情動との関係を明らかにしたいと考え、マウスのストレスモデルを作製して神経幹細胞の動態を解析しました。
その結果、強制水泳というマウスにとってストレスになることを慢性的に負荷することによって、神経幹細胞の数が減少することがわかりました。
(中略)
強制水泳ストレスのあと、通常の飼育下だと3週間後にも神経幹細胞の減少は変わりません。
フルオキセチンやイミプラミン(※注)といった抗うつ薬を飲水に混ぜて投与すると、神経幹細胞の数が正常まで回復しました。
ちなみに、抗うつ薬に神経幹細胞に直接働きかける薬理作用はなく、セロトニンを増強する効果を介してこのような効果を発揮すると考えています。
※注 フルオキセチン・イミプラミンはSSRIの一種。原文には文字装飾はありません。
『慢性ストレス下の成体脳神経幹細胞』-滋賀医大統合臓器生理学統合生理研究内容
ここでポイントなのは、抗うつ剤(SSRI)自体には直接的に神経幹細胞を増やす効果はなく、SSRIによって増加した脳内セロトニンが神経幹細胞の増加に関与している(だろう)ということです。
また、大脳新皮質でも同じようなことが起こっていることが分かっています。
本研究グループは、成体マウスに世界で最もよく使われている抗うつ薬の1つであるフルオキセチンを投与し、組織学的手法を用いて大脳皮質に存在する神経前駆細胞であるL1-INP細胞の増殖や分化について解析を行いました。
(中略)
フルオキセチンの投与によって、成体の大脳皮質ではL1-INP細胞が増殖するだけではなく、L1-INP細胞によって新しい抑制性神経細胞の産生が促進されることが分かりました。
共同発表:正常な成体マウスの大脳皮質で、神経細胞を新生させることに成功 -科学技術振興機構
(※ 神経前駆細胞:神経幹細胞から少しだけ分化した神経細胞の「もと」となる細胞)
参照した文書では、「SSRIによるセロトニン増強の効果」とは書かれていませんでしたが、セロトニンが神経細胞新生に何らかの好影響を及ぼしていることは予想できます。
ちょっとムズカシイから分かりやすく言って
脳内セロトニンを増やしたら、減っちゃってる脳の神経細胞が増える(かも)!
ということですね。
ちょっと乱暴かもですが、まとめるとこうです。
うつ病や統合失調症では脳の神経細胞が減っている。
↓
SSRIを飲むとおそらくセロトニン増強の影響で、神経幹細胞が増える。
↓
脳のダメージが修復され、症状が改善する。
「それじゃあ、SSRIなどのお薬に頼らず、自力で脳内セロトニンを増やせたら最高だよね!」
というのが、このページで私が最も伝えたいことなのです。
A:『共同発表:正常な成体マウスの大脳皮質で、神経細胞を新生させることに成功』-科学技術振興機構
B:『心の病は脳の傷: うつ病統合失調症認知症が治る』 松澤大樹 著
『慢性ストレス下の成体脳神経幹細胞』-滋賀医大統合臓器生理学統合生理研究内容
セロトニンの材料「トリプトファン」
では、どのようにして自力で脳内セロトニンを増やすのか?
そのカギは、セロトニンの材料(前駆物質)であるトリプトファンというアミノ酸です。
トリプトファンは全部で9つある必須アミノ酸のうちの1つで、体内で合成できないため食事で摂ることが「必須」。
肉・魚・牛乳や乳製品・卵・大豆・一部の野菜や果物に含まれています。
というかタンパク質が豊富な食品なら、少なからずトリプトファンが含まれていると言って間違いではないはずです。
それくらい、ありふれた栄養素です。
タンパク質は多数のアミノ酸が複雑に結合した物質ですが、トリプトファンはこのタンパク質を構成するアミノ酸として食品中に存在しています。
たとえば豆腐を食べると、豆腐に含まれるタンパク質は胃腸で消化分解されて、最終的には何種類ものアミノ酸になります。
このアミノ酸の中にトリプトファンが含まれているということです。
タンパク質はサイズが大きいのでそのままでは血液中に取り込めませんが、消化分解によってアミノ酸ほどの大きさ(小ささ)になると、血液中に取り込むことができます。
なので、消化分解によって生じたアミノ酸は血液中に移行し、必要に応じて体中の細胞に運搬されていきます。
血液中のトリプトファンの90%はアルブミンと結合している
血液中に取り込まれたトリプトファンは、そのほとんどがアルブミンというタンパク質と結合した状態で存在します。
血中のアルブミンは色々な働きをしますが、その中の一つが物質の運搬です。
血液中に入ってきた物質を吸着して結合し、結びついたまま血中を循環。必要な細胞にその物質を送り届けます。
血中に入ってきたトリプトファンのうち、90%がアルブミンと結合した状態(結合型トリプトファン)で、残りの10%は結合せずに単独で血中に存在しています(遊離型トリプトファン)。
結合型トリプトファンは脳内に入れない
ここまでの内容をまとめてみます。
- セロトニンの材料は必須アミノ酸の1つ「トリプトファン」。
- トリプトファンは食品中のタンパク質に含まれている。
- 胃腸で消化分解されて生じたトリプトファンは、血中に取り込まれる。
- 血中のトリプトファンには、↓の2つの状態がある。
アルブミンと結合した状態(結合型トリプトファン):全体の90%
結合せず単独の状態(遊離型トリプトファン):全体の10%
脳内セロトニンは脳内でしか作られないので、セロトニンを作るためには材料のトリプトファンを血液から脳内へ運ぶ必要があります。
しかし、脳みそは非常に高機能かつデリケートな器官なので、物質を何でもかんでも取り入れるのはとっても危険。
そのため人間の身体には、「血液脳関門」という関所のような仕組みが備わっています。
血液脳関門は複雑なメカニズムで働いていますが、基本的にはサイズの大きなものは通過できず、通過するためにはサイズが小さくないといけません。
話をトリプトファンに戻します。
結合型トリプトファンは、アルブミンという非常に大きなタンパク質と結合しているため、サイズが大きすぎて血液脳関門を通れません。
一方、遊離型トリプトファンはサイズが小さく、血液脳関門を通過できます。
つまり血液中に存在するトリプトファンのうち、血液脳関門を通って脳内に入り込めるのは全体の10%に過ぎないということです。
有酸素運動で血中のトリプトファンが脳内へ
以上のように、食事で摂取したトリプトファンは血中に移動しますが、そのうち脳内に入れる状態なのは全体の10%に過ぎません。
しかし、有酸素運動をすることで血中トリプトファンの脳内への取り込みが促進されることが分かっています。
その仕組みのポイントを箇条書きにすると以下の通りです。
- 有酸素運動をすると、そのエネルギー源として脂肪が使われ、脂肪が分解される。
- 脂肪が分解されて生じた脂肪酸は、血液中に移動する。
- 血中の脂肪酸を運搬するため、アルブミンは脂肪酸と結合する。
- その際に、アルブミンはこれまで結合していたトリプトファンを手放す。
- 単独で存在する遊離型トリプトファンの量が増える。
- 脳内に移動するトリプトファンの量が増える。
順番に説明していきます。
ウォーキングなどの有酸素運動では脂肪がエネルギー源になる
どんな運動でも身体を動かすためにはエネルギーが必要となりますが、そのエネルギー源は主に「糖」と「脂肪」の2つです。
糖と脂肪のどちらがエネルギーとして使われるのか?は、運動の強度(キツい or 楽ちん)と運動の継続時間によって決まっていて、
ウォーキングのような低負荷・長時間の運動では、脂肪がメインのエネルギー源として使われることが分かっています。
上のグラフを見ると、低強度の運動のエネルギー源はほぼ全て脂肪で、強度が上がるにつれてグリコーゲン(糖)の割合が増えていくのが分かります。
また、その割合こそ違いますが、どの強度でも脂肪は一定量以上がエネルギー源として使われていることも分かります。
どんな運動でも、脂肪は少なからず使われる。
ウォーキングのエネルギー源は、ほぼ脂肪。
ということですね!
参考サイト及び画像出典
運動時のエネルギー代謝と糖質制限食|農畜産業振興機構
有酸素運動で、血液中に脂肪酸が増える
有酸素運動を始めると、そのエネルギー源として脂肪が分解されます。
脂肪の主成分は中性脂肪で、グリセリン(グリセロール)というアルコールの一種と、脂肪酸という物質が結びついた形をしています。
の緑の部分がグリセリン(グリセロール)で、ギザギザの部分が脂肪酸です。上図の例では、グリセリンにパルミチン酸という脂肪酸が3つくっついています。
どの種類の中性脂肪でもグリセリンの部分は共通で、逆に脂肪酸の部分は色んな組み合わせがあります。この脂肪酸の組み合わせによって、その中性脂肪(≒油脂)の性質が変わってきます。
脂肪酸キモすぎ・・・
確かに
だいぶ脱線しましたが、とにかく有酸素運動をすると、脂肪が脂肪酸(とグリセリン)に分解されるわけです。
そして、脂肪酸は血中へと入り込み、エネルギーを必要としている細胞(骨格筋など)に運搬されていきます。
画像出典
※4 Tripalmitoylglycerol(CC 表示-継承 3.0)
※5 グリセリン – Wikipedia
※6 脂肪酸 – Wikipedia
血中の脂肪酸はアルブミンと結合→トリプトファンは手放される
血中に入り込んだ脂肪酸は、前述したアルブミンというタンパク質に結合した形で身体中を循環します。
その際に、アルブミンと結合していたトリプトファンは手放されることになります。
アルブミン「トリプトファンとか持ってる場合じゃねぇ!脂肪酸を運ばないと!」
ということですね。
血液中に遊離型のトリプトファンが増える
血中のトリプトファンには2つの状態がある、と少し上でお話しました。
- 結合型トリプトファン:90%
…アルブミンと結合した状態のトリプトファン - 遊離型トリプトファン:10%
…単独で存在しているトリプトファン
有酸素運動をすると、アルブミンからトリプトファンが手放されます。
つまり、血中で遊離型トリプトファンが増えるということです。
脳内に入り込むトリプトファンが増え、脳内セロトニンが増える
遊離型トリプトファンは「脳の関所」である血液脳関門を通過できます。
なので、遊離型トリプトファンの割合が増えるということは、その分だけ脳内に入り込めるトリプトファンの量が増えるということを意味します。
トリプトファンはセロトニンの材料ですから、脳内のトリプトファンの量が増えれば、脳内で作られるセロトニンの量も増えてくれるというわけです。
最後に、もう一度この一連の流れを整理してみます。
- 有酸素運動をすると、そのエネルギー源として脂肪が使われ、脂肪が分解される。
- 脂肪が分解されて生じた脂肪酸は、血液中に移動する。
- 血中の脂肪酸を運搬するため、アルブミンは脂肪酸と結合する。
- その際に、アルブミンはこれまで結合していたトリプトファンを手放す。
- 単独で存在する遊離型トリプトファンの量が増える。
- 脳内に移動するトリプトファンの量が増える。
中枢性疲労のメカニズム:「セロトニン仮説」
ここまでお話したロジックは、もしかすると机上の空論のように見えるかもしれません。
マジでそれ。なんか騙されてるような・・・
しかし、運動科学やトレーニング界隈では、実はこのロジックはかなり前から「定説」となっているのです。
筋トレやランニング(長距離走)などの激しい運動をしていると、身体の筋肉はそれほど疲れていないはずなのに、なんだか身体が重く感じることがあります。
こういうときに感じる疲労は、脳が疲労を感じる「中枢性疲労」と呼ばれているそうです。
マラソンや高負荷の筋トレなど、日常では考えられないような激しい運動をすると、脳は身体を保護するためにストッパーをかけるのです。
もうやめて!これ以上は危険!最悪◯ぬぞ・・・
というように。
そして、この中枢性疲労を感じる仕組みとして、上でお話した
運動で血中脂肪酸増加 → 遊離型トリプトファン増加 → 脳内セロトニン産生増加
のフローが関係しているという説があるのです。
セロトニンは身体と精神に対して様々な作用をもつ神経伝達物質ですが、とくに睡眠やリラックス状態との関係性に注目されてきた経緯があります。
そのため、「激しい運動をきっかけに脳内セロトニンが増えるなら、それが中枢性疲労の原因に違いない!」となっていたのです。
ちなみに現在では、運動による脳内セロトニンの増加と中枢性疲労のあいだには、直接的な因果関係は無いという考えが主流です(トリプトファンを含む血中アミノ酸の関与は有ると考えられています)。
しかし、このような中枢性疲労に関する仮説とその検証の歴史は、
運動で血中の脂肪酸増加 → 遊離型トリプトファン増加 → 脳内セロトニン増加
というフローはたしかに実際に起っているし、決して机上の空論ではない
ということの証拠といえるのではないでしょうか。
しつこい
『疲労の分子神経メカニズムと疲労克服』(日薬理誌 2007年129巻2号2月号)
『運動・栄養と中枢性疲労発生機構 -TGF-βによる中枢性疲労発生と代謝調節-』(体力科学 2006 55巻)
リズム運動それ自体がセロトニン合成を促す
ウォーキングが脳内セロトニンの合成を促す理由について、最近読んだ本で「リズム運動自体がセロトニン合成を促す」という説を知りました。
具体的には、このような文章です。
動物は、その名のとおり、自ら動いて(歩行のリズム運動)獲物を取り、それを噛んで(咀嚼のリズム運動)体内に取り入れ、血液に吸収された栄養物を、呼吸によって(呼吸のリズム運動)吸い込んだ酸素を使って全身の細胞にエネルギーとして運びます。
これが動物の生命活動の基本です。つまり「歩行」「咀嚼」「呼吸」の三つのリズム運動が、生命を維持する基本だということです。
この三つのリズム運動をつかさどる神経機構は「脳幹」に存在します。それらの構造の正中部(縫線核)に「セロトニン神経」が位置しています。
ようするに、歩行・咀嚼・呼吸のリズム運動をしっかりと行うとセロトニン神経が活性化されるように私たちの脳はできているのです。
『医者が教える疲れない人の脳』p37(有田秀穂 三笠書房)
これは、ウォーキングに絡めて簡単に言えば、
- ウォーキングは、「歩行」と「呼吸」というリズム運動である。
- これらのリズム運動は、脳幹の神経機構がつかさどっている。
- 脳幹の正中線(真ん中のライン)にはセロトニン神経が集まっている。
- つまり、ウォーキングというリズム運動によってセロトニン神経が活性化される。
- 結果として、脳内セロトニンの合成が促進される。
ということです。
歩行や呼吸は、特に意識せずとも自然と出来ますよね。これは、脳幹という部分が自動でコントロールしているから。
そして、脳幹の正中線(中心線)に沿って縫線核という細胞集団が存在しています。
縫線核にはセロトニン細胞が集中していることが分かっています。
縫線核は中脳から脳幹の内側部に分布する細胞集団で、9つの神経核B1-B9よりなる。免疫組織学的手法によりセロトニン細胞の分布とほぼ重なる。
縫線核 -脳科学辞典
つまり、
セロトニン神経が多く集まっている脳幹は、歩行と呼吸をつかさどっている。
ウォーキングで歩行と呼吸というリズム運動を行えば、脳幹がフル稼働して、セロトニン神経も活性化される。
そして脳内セロトニンも作り出されやすくなる。
こういうロジックです。
トリプトファンうんぬんの小難しい話は関係なしに、歩行というリズム運動自体がセロトニン神経を活性化してセロトニン合成を促してくれるという説ですね。
運動がBDNF(脳由来神経栄養因子)を増やす
ここまでは脳内セロトニンと運動の関係について書いてきました。
運動がうつ病・統合失調症改善につながる科学的根拠には、他にもう1つ有ります。
それは「運動がBDNF(脳由来神経栄養因子)を増やす」という事実です。
BDNF?ADSL?ISDN?
世代がバレますよ
BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor):脳由来神経栄養因子は、神経細胞の生存・成長・機能亢進を調節し、神経新生を刺激・調整する、脳細胞の増加に不可欠なタンパク質です。
漢字多すぎだろ
簡単にいえば、脳の神経細胞の健康を維持して成長をサポートしたり、あらたに神経細胞が生まれるのを促進したり、そういう大事な仕事をしているのがBDNFです。
そして、このBDNFも運動によって量が増加することが分かっているのです。今から30年以上も前から判明していたそうです。
ある種の身体的運動は、ヒトの脳において、BDNFの合成を3倍程度にまで増加させる。この現象は、運動による神経発生や、運動による認知機能改善の仕組みの一つである。
脳由来神経栄養因子 – Wikipedia
運動が脳におけるBDNF発現を増強することは、1995年にNeeperらによって最初に報告された。
その後、運動によるBDNF発現増強は様々な脳領域(大脳皮質、海馬、線条体、小脳)や脊髄で起こることが、筆者らの研究を含め多数報告されている。
つまり、運動は多様な領域で神経栄養因子の発現を増強し、神経新生や回路機能の強化、神経保護作用など、神経機能の維持や可塑性の誘導にはたらくと考えられる。
運動が支える脳の健康 | 脳研コラム | 新潟大学脳研究所(脳研)
簡単に言えば、
脳の健康をキープする「お役立ち物質」が、運動するとメッチャ増える
ということですね。
前述したように、うつ病・統合失調症では神経細胞の減少が見られることが知られています。
運動によってBDNFが増えて神経幹細胞が刺激されれば神経細胞が増える。
その結果として、うつ病・統合失調症の症状改善につながる可能性がある、と言えるのではないでしょうか。
アレコレ考える前に歩こう(走ってもOK)
ここまで、小難しい話をマイペースで長々と続けてきました。
「運動がうつ病や統合失調症改善につながるのには、わりとしっかりとした科学的根拠がありそうだ」
そう思って頂けたら嬉しいです。
でももしかしたら「嘘っぽいんだよね~」「怪しい」「信じられない」と感じたかもしれません。
それでも全然OKです。
なぜなら、上でしたお話が全部真っ赤な嘘、デタラメだとしても、運動したほうが良いのは決まりきっているから。
適度な運動が健康に良いのは自明です。損することもなく、プラスにしかなりません。
ここまでのお話が全部ウソでうつ病・統合失調症の改善につながらなくても、少なくとも体力増強にはなります。
なので、これまでのお話が眉唾ものと感じても、ぜひウォーキングを毎日やってみてください。効果は期待せずに体力増強のつもりで始めてみて、症状が改善したら儲けものです。
時間にして10分15分もかかりませんし、疲れるほどやらなくてもOKです。
ということで最後に、具体的なウォーキングのやり方について簡単にまとめます!
朝、または少なくとも午前中に歩く
日光が目から入ると、セロトニン神経が刺激されてセロトニン合成が促進されることが分かっています。曇の日の光量でも十分だそうです。
なので夕方や夜ではなく、太陽が出ている時間帯にウォーキングするのがベター。
また、セロトニンは睡眠覚醒をつかさどっているので、朝にバシッとセロトニンを出すと身体がシャキっとします。
なので理想なのは、朝の時間帯のウォーキングです。
最初は、ウォーキングの歩数や継続時間は気にしない
もちろん、出来るだけ多く歩いた方が症状改善の効果は大きいはずです。
しかし、「外に歩きに行こう」と決心して実際にウォーキングする、うつ状態の場合はこれだけでもかなりハードルが高めですよね。
なので、5分10分でも良い。お日様の光を浴びるだけでも良い。
そう考えて、散歩気分、気分転換だと思って歩くのが最初は良いと思います。
慣れてきたら、歩数や継続時間も伸ばしていくと段々と楽しくなってきて、じょじょに症状も改善。さらにウォーキングが楽しくなる。
というような好循環に乗っていけるはずです。
でも最初はハードルを出来るだけ低くするのがポイントだと思います。
スマホをポケットに入れて歩く
スマホには歩数計の機能が標準搭載されているので、ポケットに入れておくだけで歩数が計れます。
毎日の歩数を眺めていると、「これだけ歩いたんだ」とか「もう少し歩けるかも」のように、モチベーションの維持向上につながります。
スマホを見ながら歩くのは良くないですが、ポケットにしのばせてウォーキングしましょう。
バナナを1本食べてから歩く
バナナには、
- トリプトファン(セロトニンの原料となる必須アミノ酸)
- ビタミンB6(セロトニン合成を促進する補酵素)
- 炭水化物
が含まれています。
ウォーキングで脳内セロトニンをバシッと増やしたい!というときには、バナナはまさにうってつけの食べ物なのです。
食べるのも簡単ですし、何より甘くて美味しいです。
ということで、ウォーキングをする前には、バナナを一本頬張ってから出かけましょう。
テレビやタブレットを見ながらランニングマシンもアリ
雨の日はウォーキングできませんし、強風の日はウォーキングしたくないですよね。
それに、「今日はどうしても外に出たくない」という日は誰しもが有るはずです。
そういう場合には、ランニングマシンを用意して室内でウォーキングするのがオススメです。
ランニングなら、「テレビ番組を見ながら」「タブレットでネトフリを見ながら」「マンガを読みながら」ウォーキングが出来ちゃいます。
もちろん外でウォーキングするのがベストですが、歩いていることには変わりないです。
スキマ時間を使ったり、なんとなくやる気が出たときにランニングマシンに乗ってみたり・・・
で、トータルの運動時間はランニングマシンを導入することで増えると思います。
ウォーキングやりたいけど、どうしても始められない・・・
雨の日にウォーキングできないのが嫌だ
という場合は、ランニングマシンを購入してみてください。
ネットで普通に買えちゃいます。
まとめ
長々と小難しい話を続けてしまいましたが、このページで伝えたいことは、結局はこの一言につきます。
ウォーキングを続けたら、うつ病も統合失調症も良くなるはず!
だから歩きましょう!
二言だな。
二言ですね。
冒頭でも書きましたが、今から10年以上前、うつ病で苦しんでいた私は医者に「毎日1万歩は歩いてください」と言われ、わけも分からずウォーキングを始めて中途半端に実践していました。
その当時に、ウォーキングがうつ病改善につながる仕組みを知っていたら、もう少し積極的・主体的にウォーキングできたと思います。
結果として、もっと早くうつ病は改善していただろうなと感じます。
とにかく、5分10分でも良いのでウォーキングをしてみると、なんだか頭がスッキリするのが感じられると思います。
そして、ウォーキングが終わった後は、なんとなく気分が良い。
このような「ちょっと気持ちのよい」プロセスを繰り返していくうちに、うつ病や統合失調症が改善するかもしれない。
こんな軽い気持ちでOKなので、ぜひウォーキングを始めてみてください。