プロ野球の減額制限って意味ないよね?と思ってたけど案外そうでもなかった

減額契約更改

「野球協約の減額制限を大幅に超える60%減の提示」

「○○投手、減額制限超えの大幅減俸を拒否し退団濃厚」

プロ野球のシーズン終盤から日本シリーズあたりにかけて、スポーツニュースの見出しでよく見かけるのが、こんなフレーズです。

最近ですと、オリックスの金子千尋投手が6億円→1億円で5億円減(約80%減)、元オリックス・現ジャイアンツの中島宏之内野手が3.5億円→1億円で2.5億円減(約70%減)といった事例がありました。

こういうニュースを見るたびに、

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選手がかわいそう! 減額制限超えてもいいなら、協約の意味ないじゃん!

と小学生並みの感想を心の中でつぶやくと同時に、

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でも、何かしら意味があるからルールとして減額制限が残ってるんだろうなぁ

という感じのボンヤリとした疑問が浮かび、モヤモヤしてました。

長年のモヤモヤ感が積もり積もって、本日限界に達したので、きちんと調べてみました。

ということで、このページでは

  • プロ野球の減額制限ってそもそも何なのか?
  • なんで球団は制限超えの減俸を提示できるのか?
  • 減額制限の存在意義はあるのか?あるとしたら何なのか?
  • 球団側・選手側のメリットは?

といった点をまとめてみました。

僕と同じモヤッと感を持っていらっしゃるなら、読めばモヤモヤがかなり解消されると思います。

そもそも年俸の減額制限って何?

日本のプロ野球に関する色々なルールを定めた『日本プロフェッショナル野球協約』という取り決めがあり、この中に選手の年俸に関する規定があります。

減額制限については、以下のように書かれています。

第92条 (参稼報酬の減額制限)

次年度選手契約が締結される場合、選手のその年度の参稼報酬の金額から以下のパーセンテージを超えて減額されることはない。ただし、選手の同意があればこの限りではない。その年度の参稼報酬の金額とは統一契約書に明記された金額であって、出場選手追加参稼報酬又は試合分配金を含まない。
(1)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円を超えている場合、40パーセントまでとする。
(2)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円以下の場合、25パーセントまでとする。

日本プロフェッショナル野球協約2017

年俸1億円超の選手なら40%減、それ以下の選手なら25%減が減額上限と規定されています。

しかし、赤太字の一文「ただし、選手の同意があればこの限りではない」という一文があるため、実際には減額制限超えの減俸提示が頻発してわけです。

「減額制限」という字面からは、「一定割合以上の減額はされない」という年俸の水準保証という意味合いが想像できますが、そうではないのが実情のようです。

減額制限超えの減俸を提示する球団の意図は、こんな感じです。

  • 年俸、ガツンと下げるから来季はこの金額で契約してね。
  • 文句があるならクビ(自由契約)にしてあげるからヨソに行って。
  • 金額には納得できないけど球団には残りたいって?なら調停だね。

一言でいえば「この金額なら雇うけど、文句があるならクビ!」ということですから、一種の脅しと言えなくもありません。

減額制限ルールのメリット・存在意義

ここまでのお話だけですと、あまりにも選手側に不利なルールに思えます。「こんなルールは無意味」とも感じるはずです。

でも、実際には減額制限のルールは残っています。このルールが続いているのには、選手側にもメリットがあるからに違いありません。

ということで、選手側のメリットを詳しく調べてみました。

減額制限自体が無かったとしたら?

まず、「40%(25%)まで」という減額制限が一切無かったとしたら、どうなるでしょうか?

選手側には3つの大きな問題が生じます。

  1. 大幅減俸が続出する。
  2. 自由契約になる権利が失われる。
  3. 他球団への入団が困難になる。

まず、球団側が自由に年俸を下げられるので、大幅減俸となる選手が続出するはずです。

大幅減の提示に対して選手側は反発しますから、契約更改がもつれるケースも激増することになります。

また、「自由契約の身に簡単になれなくなる」「自由契約になるのが遅くなる」という点も大きなデメリットです。

現行のルールでは、制限超えの減俸提示を受けた選手が同意しない場合、自由契約になる権利が保証されています。

このルールが無い場合、球団側が選手と契約しようとする意思を捨てて、契約する権利を放棄しない限り、選手は自由契約になれません。自由契約になれなければ、他球団に移ることもできません。

また、自由契約になる時期(タイミング)の問題もあります。

契約更改交渉の時期は、通常11月上旬から年末にかけてです。しかも、大物選手ほど年末に近いのが普通。

大幅減俸の提示を受けて、契約更改の交渉を経て結果的に自由契約になったとしても、この時期には他球団の編成作業もかなり進んでしまっています。

また、戦力外選手が参加する12球団合同トライアウトにも参加できません(大物選手はあまり参加しませんが)。

つまり、他球団への入団ルートが少なくなるうえ、その活動期間も短くなるので他球団に移るのも難しくなってしまうわけです。

現行ルールでは、球団が減額制限超えの提示を行う場合、戦力外通告を行うのと同じ期限までに、選手にその旨を通知しなければならない決まりになっています(原則として、遅くとも日本シリーズ終了の翌日まで)。

事前に通告することで、選手は他球団への入団をめざす活動がしやすくなります。実際、減額制限超えの減俸提示を受けて自由契約となった選手が、すぐに他球団と契約するのはよくあるケースです。

以上のように、減額制限ルールそれ自体には選手側に大きなメリットがあります。

「選手の同意があればOK」の一文が無かったら?

次に、「選手の同意があれば制限を超えてもOK」という一文が無かったらどうなるでしょうか?つまり、球団が40%(25%)減までの減俸提示しかできなくなる、という状況です。

一見すると選手側に有利なようにも思えますが、そうでもありません。2つのデメリットが大きいからです。

  1. 年俸が高額な大物選手・ベテラン選手の解雇が相次ぐ。
  2. 好成績を残しても、年俸の大幅アップが望めなくなる。

という2つです。

まず、年俸数億円レベルのベテラン大物選手のクビが切られやすくなります。

長年に渡って好成績を残して球団に貢献してきたけど、今年はほとんど出場できなかった。または、出場しても全く活躍できなかった。よくあるケースですよね。

こういう選手について球団は、「来季以降に復活して大活躍する可能性もあるのでクビは切りたくない、でも今の年俸は高すぎる」と考えることが多いでしょう。

減俸制限超えの提示が出来ないとすると、今年5億円なら最低でも3億円は払わないとその選手と契約できないことになります。

このとき球団は、「全く出場してない選手に3億円はやっぱり無理!クビにしよう!」と考えて、その選手を自由契約にするはずです。

ということで、高給取りの大物選手が簡単に自由契約になります。

自由契約になったあとに、契約してくれる球団が現れればよいですが、その保証はありません。どこからも声がかからなければ、現役引退や独立リーグへの移籍となってしまいます。

こういう意味でも、「制限超えの減俸でも良ければ来シーズンも残ってくれ」という球団の提示は、選手側にとって「有り難い」ケースも多いといえます。

また、ガッツリ年俸を下げられないとなると、好成績を残しても年俸が上がりにくくなります。

現行のルール下では、「○○選手、2.5億円から倍額の5億円で契約更改!」というのはたまにあるケースですが、こういう大幅アップがやりづらくなります。

5億円に上げたあとに、その選手が大スランプや大怪我で2軍生活が続いたようなケースでも、次の契約更改では最低でも3億円を提示しないといけません。

球団にとってはリスクが大きいので、「5億円はやりすぎだから、1億円増の3.5億で」としたくなります。

という感じで、「選手の同意があればOK」というルールを外すと、大活躍した選手の年俸大幅アップが少なくなる事が想定できます。

まとめ

「減額制限、意味ねぇじゃん!」と思っていた僕ですが、その意味とメリットが理解できました。

細かい点は変わるかもしれませんが、「選手の同意があれば、制限を超えた減俸提示もOK」というルールは当分続くのではないかと思います。

今年の契約公開の時期は、もうモヤモヤしなくて済みそうです。

参考ページ

この記事をつくる際には、以下のページを参考にいたしました。

参考 野球協約・統一契約書日本プロ野球選手会 公式ホームページ

参考 契約更改Wikipedia

参考 保留者ゼロ。なぜ中日の選手たちは「大幅減俸」を受け入れたのかweb Sportiva

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